稲妻旅行記

  一介の船員として、テイワットを隅々まで探索し尽くすのは、俺の長年の夢だった。この手記を書いているのは、俺が船隊へと参加したばかりの頃で、「黒火号」に乗って稲妻に向かっているときのことだ。少し気恥ずかしい話なのだが、これは俺にとって初めての航海であった。だから、海の嵐をどう対処したらいいのかも分からない。副船長の潼生は口数の少ない人物だが、航海について俺にいろいろと教えてくれた。同室の年配の船員、閒来も稲妻のことを話してくれた。長い航海の間、暇つぶしにこれら話を記録しようと思う。

  稲妻、永遠の国。噂によると、稲妻の外海は荒れ狂う雷雨に覆われており、そこを突破するには、経験豊富な船隊と堅牢な船が必要不可欠だという。だが、嵐を乗り越えた先に待つ稲妻は、魅力的な景色で人々を迎えてくれるそうだ。この話を初めて聞いた時、船員たちが海の天候を誇張しているだけで、今までの経験を自慢しているのかと思った。しかし昨日、実際に雷雨と嵐を目の当たりにし、この海で生きていく厳しさを身をもって体感した。それと同時に、稲妻への憧れも少し増したかのように思う。認めたくはないが、長く海にいると陸での生活が恋しくなるようだ。地面の感触や土の匂いまでもが、今は懐かしく感じる。だが、過去の選択をもう一度やり直せたとしても、俺は迷わずこの船へと足を運ぶだろう。かつてのくだらない日々と比べれば、海での生活は何倍も面白い。なにせ、未知なる冒険が数多く待ち受けていて、知らない物語がこんなにも存在するのだから。

  聞いた話によると、稲妻の風土と人情は他の国と全く違うらしい。モンドや璃月と異なり、稲妻は海上に点在し、多くの島から構成されている。また大きな島の周りには、小島がいくつかあり、島と島の間の移動には大半の人が船を用いるそうだ。

  今、俺たちの船は離島を目指している。離島は鳴神島の群島の一つであり、そしてかの稲妻城も鳴神島にある。この島では、至るところで櫻を見ることができるらしい。櫻が満開となる季節、花々が落とす影はまるで雲のようで、その下を通ると花びらが雨のように降って、全身を櫻色に染めるという…年配の船員が誇らしげにある絵を俺に見せてくれた。それは稲妻の神社で描かれたもので、彼が心を込めて描いたもののようだ。その咲き誇る櫻を、俺は一生忘れないだろう。

  外国人が稲妻に入るには、離島に行かなければならない。また稲妻の本土へ足を踏み入れる前に、勘定奉行のもとで手続きを済ませる必要がある。そうしなければ、不要なトラブルを招いてしまうかもしれない——と、年配の船員が意味深な口調で俺に教えてくれた。きっと、彼は身をもって体験したのだろう。ただ、離島に着いて少し休めば、すぐに稲妻の風情を味わうことができるとのことだ。

  海の上で長い旅をしてきたからか、陸の食べ物が恋しい。きっと稲妻にも、美味しい食べ物が数多くあることだろう。年配の船員から「緋櫻天ぷら」という稲妻料理を教えてもらった——外の衣が黄金色に輝き、サクサクとした食感で、ほのかに櫻の香りがするそうだ。一口噛むと、口当たりの良い衣から香りが広がり、中身も実に美味とのこと。年配の船員が話し終えると、ゴクリと喉を鳴らした。俺もなんだか少し腹が減ってきたように感じる。俺はますます稲妻への到着に胸を膨らませた。

  さて、そろそろ甲板に出て、仕事をする時間だ。今日の手記はここまでにしよう。前方から雷の音が少し聞こえてくる。これは稲妻の雷電将軍が意図的に響かせているものだと聞いた。きっとその裏には何か事情があるのだろう。暇を見つけて、年配の船員に稲妻の伝説について聞いてみよう。おそらく面白い話が聞けるに違いない。俺の荷物には大事にしてきた酒が一瓶ある。こういう話をするのにもってこいの一品なはずだ……