海灯拾記

  璃月港に初めて足を踏み入れた時、僕はこの都市の美しさと栄華に魅了された。遠くから街にある楼閣を眺めるだけで、その生き生きとした生命力が伝わってくる。街を散策すれば、遠方より訪れる船隊が見える道端にある屋台からは、煙と共に立ち上る、食欲をそそる料理の香り。街中を当てもなくぶらつけば、商店では様々な珍しい宝を見つけられる…

  もちろん、商人として僕が持ち込んだ品も、ここではいつもいい値段で売ることができた。今回は海灯祭の時期ということもあり、璃月港はいつもより忙しそうだ。しかし、人々の顔には笑顔があり、街を巡回する千岩軍もいつものような厳かな雰囲気がない。僕が持って来た布地はすぐに売り切れた。買い手の中にはもっとも高価な布地をいくつか選び、すべて買い取ってくれた人もいる。鮮やかな色合いと、生地の柔らかさを相手は褒めてくれた。金糸を織り交ぜた布地はきっと、海灯祭の灯りに照らされ光り輝くことだろう。

  普段の璃月港が山のような力強さと活気に満ち溢れたものだとすれば、海灯祭の時期の璃月港は街を埋め尽くす灯火である。子供の頃、僕は商隊にいた年寄りの商人から各地の風習と人々の話を聞くのが大好きであった。当然、海灯祭の習わしも聞いたことがある——璃月人は英雄たちの魂を故郷へと導くために、夜空を埋め尽くすほどの霄灯を飛ばすそうだ。彼らはその時節に古きを送り、新しきを迎える。新しい一年の好運を祈り、霄灯に願いを託すのだ。また、この時期になると璃月の街中には「明霄の灯」が飾られる。普通の霄灯とは違い、それは璃月の人々が仙人を祀るために作ったものだそうだ。明霄の灯は建物と見紛うほどの大きさであり、その中は輝く光で満たされている。遠くから眺めれば、その姿は実に絢爛。夜通し煌々と光る情景は、海灯祭でもっとも注目すべき景色の一つだろう。

  この時期、璃月の料理を食べてみるのもおすすめだ。祭りの期間中、店主たちは普段より多彩な料理を提供している。街中は料理のいい匂いで満たされ、お店や屋台はいつもより混雑しており常に賑やかだ。お腹を満たした後は、霄市を散策するといいだろう。きっと楽しめること間違いない。

  海灯祭の夜、幸いにも今年の花火大会を見ることができた。その夜、璃月港全体がまるで真昼のように光に照らされ、港は人々で溢れかえり、絶えず談笑に包まれていた。港を見下ろすと、そこには数え切れぬほどの霄灯があった。それらがゆっくりと空に浮かび上がると、まるで星のように瞬く。そして、この日初めての花火が空に打ち上がり、人混みの中から歓声が沸き起こった。花火が次々と空に咲き、壮観な光景が目の前に広がった。僕は長年、様々な場所を旅してきたため、これまで多くのものを見てきたと自負している。だが、あのような花火は他でもそう簡単に見ることはできない。

  花火大会が終わった後、僕は立ち止まって璃月の街を見回した。子供たちが僕の前を走って通り過ぎると、「明霄の灯を見に行こうよ」という声が聞こえた。すぐそばにいたのは、同伴者の手を借りながら霄灯を持つ白い服の少女。目を閉じ、微笑みを浮かべながら、祈りを捧げていた…灯を見に来た人たちの中には、僕の仕事仲間もいた。だが今日という日に、仕事の話をするのは野暮というもの。笑顔で挨拶を交わした後、海灯祭の雰囲気に浸り続けた。

  来年の海灯祭は、僕にまたどんな驚きをもたらしてくれるだろうか?